青柳菜摘《孵化日記》

2011, video 10′ [fullHD, stereo], size variable

「孵化日記」は、2011年5月から続けている「メタドキュメンタリー」と称するシリーズ作品である。本作は、2011年3月11日の東日本大震災、またそれに伴い起こった福島第一原子力発電所事故を受けて、地震という予測不能な自然災害と、人によって作られた放射性物質という目に見えない脅威をどう「見る」ことができるかということがきっかけとなり制作が始まった。その脅威による影響を最も受けているのは、生死のサイクルが早い虫ではないかと仮定し、これまで見過ごしてきたものの強い関心を抱いていた「スミナガシ」という蝶の幼虫を見つけ出そうとする。

“メタ”ドキュメンタリーとしているのは、この作品が「虫を探し出す」という体験を追ったドキュメントなのではなく、作家が生きる生活も含めた「人間の生」の時間も含めた複数の時間が、ビデオカメラを気軽に持ち運ぶことで現代のメディアによって映し出され、即座に編集されるといった要素も含めているためだ。シリーズ一作目となる《孵化日記》は、「スミナガシ」を見つけることは叶わず、ただ山を探し回る一人称視点の映像と訥々と話される日記的な音声によって作られている。そこでは、目に見えないものと”直面”するということが、虫を見つけられなかったことによって浮かび上がる。

https://youtu.be/vay2twyQ1bY

孵化日記 原稿